体験談7

以前住んでいた家の近くに、火曜日と金曜日、新鮮な卵とちょっとした野菜を売りにやって来るおじさんがいました。
その頃、私はちょうど引っ越してきたばかりで知り合いもおらず、生の人間と話すのは夫と生まれたばかりの我が子くらいでしたので、この卵を売りにやってくるおじさんとの会話も、私にとってはとても貴重なものでした。
初めは、挨拶程度でしたが、その内天気の話をするようになり、そこから少しずつ会話が広がっていき、すっかり打ち解けていきました。いつも子供をベビーカーに乗せて連れていたので、子供のことも気に掛けてくれ、さりげなく子供に桃をくれたり、私には卵をおまけしてくれたり、私もすっかりおじさんのファンになっていました。
3年ほど経って、そこから少し離れたところに引越すことになったのですが、時間があるときはなるべく立ち寄るようにしていました。
幼稚園が始まった息子は、時々しか一緒に行くことができなくなりましたが、行くたびに息子も覚えているのか、ニコニコとおじさんと話し、おじさんも鶏を連れてきてくれたり、いつ来るかわからない息子のために、車の中にわざわざ子供用の飴を常備していてくれました。
2年ほど前から、どうも体調が良くないということで、おじさんの替わりに甥っ子がやって来るようになりました。おじさんに似た、愛想のいい人でした。早く元気になるといいですね、春ごろには戻ってこれるといいですね、なんて話をしていましたが、その後おじさんが亡くなった事を人づてに聞きました。
じんわりと悲しみが広がりました。卵を介して知り合ったおじさんを想って涙が出るなんて、今まででは考えられませんでした。深く知り合ったわけではないけれど、おじさんの優しさや温かさをしっかり感じていました。おじさんとはもう会えないけれど、こんなご縁を持てたことを、素敵な人に出会えたことを嬉しく思っています。